[オリジナルイタリアンを聴いて]投稿 2015/06/30

みなさま
先週木曜日に池袋の明日館で行われた「洋館で味わうオリジナルチェンバロの魅力」〜17世紀イタリア・フィレンツェのメディチ家からやって来たオリジナルイタリアンチェンバロで聴くバッハまでの軌跡〜を聴く機会がありましたので、楽器製作者の立場からレポートします。
使用楽器は Giovanni Baptista Magnelli (Firenze 1688)、当日の資料によると、メディチ家が16〜17世紀に所有していた別荘のうちの1軒に置かれていた楽器で、20世紀後半にドイツ人コレクターの手に渡り1991年に日本に運ばれたとのこと。ネームボードには、作者の名前と製作年の他に、1777年に修理を行ったことが記されています。
形式はインナー・アウター、アウターケースは1993年に日本で製作、音域はGG-c3、GG#なし53鍵、サイズは2500L. 890W. 250H. 当日のピッチは約403Hz
テール部分を継ぎ足した補修痕があり、最低音部分で大きく円弧を描くようなブリッジの痕から、オリジナルの状態からテール部分を切断して短くした後、オリジナルの状態に復元したものと思われます。スケールを確認することはできませんでしたが、音域全体でレッドブラスの弦が張られています。
音色は柔らかで甘く、まさにdolceと形容したくなるもので、一般的なイタリアンの音色のイメージ「エネルギッシュで歯切れがよく倍音の少ない太身の音」とはかなり異なるものでした。有田(正弘)さんに、このような音色を意図して修復されたのでしょうか?と質問してみましたが、他にも何台もオリジナルのイタリアンの音を聴いているが、このような傾向の音はオリジナルでは当たり前で、一般的なイタリアンの音色のイメージは先入観ではないか、とのお答えでした。
私自身は、手元にあるイタリアンを数年前から弦と爪を軽い方向へ調整してきて、イタリアンにはdolceの要素が必要との思いを強くしていたので、今回のMagnelliの音と有田さんのお話は、わが意を得たりという思いでした。この音のイメージを次にイタリアンを製作に活かすことができたらと願っています。
ヨーロッパでも近年、演奏会などでオリジナルチェンバロの音を聴く機会は少なくなっていると聞きます。まして17世紀の楽器の音を聴く機会はさらに少ないのではないかと思います。今回は、それを日本に居ながらにして聴く貴重な機会でしたので、当初の定員40人はあっという間に満席になったとのこと。会場を普段はコンサートには使用することができない食堂に変更して定員を少し増やしたそうですが、関心の高さをうかがうことができます。
歴史的チェンバロの復権から半世紀余り経って、ベンチマークとしてのオリジナルチェンバロの存在がかつてに比べると薄くなった印象のあるこの頃ですが、今回はオリジナル楽器の意義を再確認する機会ともなったと思います。このような貴重な機会を提供してくださった有田さんご夫妻と梅岡さんに感謝です。
今後もオリジナルチェンバロを使った演奏会を企画していきたいとのことですので、次回が楽しみです。
高橋 靖志(チェンバロ・クラヴィコード製作家)

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>