[オリジナルクラヴィコードの製作家について] 高橋靖志

新潟在住のクラヴィコード・チェンバロ製作家の高橋靖志氏よりオリジナルクラヴィコードについての興味深いレポートをお送り頂きました。

みなさま

梅岡さんよりご案内のありました6月16日池袋明日館でのコンサートで使用するオリジナルクラヴィコード調整を担当しました。その過程で、たいへん興味深い事実が判明しましたのでレポートします。

高橋 靖志

このサインのないクラヴィコードは、フレット式(diatonically fretted)でありながらFF-f3の5オクターブの音域を持つ珍しいタイプの楽器です。歴史的楽器としては、このタイプの楽器は11台が確認されています。そのうち製作者のサインのあるものは、Hassが2台、Hubertが1台、Schmahlが3台など合計8台、サインのないものは少なくとも3台あり、この楽器はそのうちの1台です。

音域: FF-f3
フレッティングシステム: diatonically fretted
長さ: 1575mm
幅: 420mm
高さ: 125mm
スケーリング: c2=260mm
Stichmass: 477mm(3オクターブの鍵盤幅)
ケース材: オーク

今回この楽器に、南ドイツRegensburgのSchmahlの楽器と酷似する特徴が数多く見つかりました。Schmahlは、南ドイツで17世紀末から19世紀初めにかけて5世代に渡って数多くのオルガン、クラヴィコード、ピアノ製作者を排出した楽器製作者の一族です。3代目となるChristoph Friedrichに始まるRegensburgのSchmahlの楽器は、サインのあるものが9台、サインのないものが7台の合計16台が確認されています。

ところで、この楽器にはイニシャルと思われる文字が2箇所に書かれています。底板CEFとCGFと読める文字が、キーの裏側にもCEFと読める文字があり、キーに書かれた文字はそれぞれ対応する音名のキーの裏側に書かれています。これらの文字を見てクラヴィコードに関心のある人がまず思い浮かべるのは、Christian Ernst Friederici(1709-1780)とChristian Gottfried Friederici(1714-1777)の兄弟と、Gottfriedの息子のChristian Gottlob(1750-1805)でしょう。ErnstのクラヴィコードはC.P.E. Bachが所有していたことで有名ですが、現存するFriedericiファミリーのクラヴィコードはGottfriedのものがLeipzigとParisに1台ずつ、いずれもFF-f3の音域を持つunfrettedの楽器で、frettedの楽器は残されていません。

Schmahl (Regensburg)クラヴィコードの主な特徴として
1. オーク製のケース
2. キーレバーの飾り彫り
3. キーのバランスホール周辺のケガキ線
4. キーフロントのアーケイド
5. ツールボックス内に伸びたバスヒッチピンレールとその形状
6. 長方形の両端を丸くカットしたマウスホール
7. J字状で両端を直角にカットしたブリッジ
があげられます。

今回調査した楽器は、これらの特徴がすべて一致しました。一方、Friedericiとの類似はわずかしか認められませんでした。ポイントとなる特徴を以下に比較していますが、メーリングリストでは写真を文章の間に入れることができないので添付ファイルとして何枚かを投稿したいと思います。

1. キーレバーの飾り彫り
Schmahlは、交互に向きを変えた斜めのラインと両端のスプーン状のカットが特徴ですが、この楽器も全く同一形状を持っています。一方FriedericiのうちParisのものは中央を削り残すパターンになっています。LeipzigのFriedericiは、判別可能な写真が見つかりませんでしたがインターネット上の数台のコピーの写真から見る限りでは、Schmahlとは異なるパターンの斜めラインを持っていると思われます。

2. バランスホール周辺のケガキ線
16台のSchmahlのうち12台に、ナチュラルキーとシャープキーそれぞれにセンターと両端を示す3本、彫りの端の部分に1本の計7本のケガキ線があり、7本のケガキ線がないことが確認されているのは2台のみです。今回調査した楽器にも同様の7本線があります。一方Friederici(Paris)は、写真からの判断ですがセンターに1本ずつのみであることが読み取れます。

3. キーフロントのアーケード  アーケードの一致は製作する刃物が同一であることを意味するので、製作者を特定するための重要なポイントの一つです。対象となるSchmahlとは写真での比較ですが一致していると見てよさそうです。
4. ツールボックス内に伸びたバスヒッチピンレールとその形状  これは、トロントのサインのない楽器を調査しSchmahlとされると結論付けたGregory Crowell氏に写真を送って見てもらった際に、いくつかの特徴に加えてこの形状が一致すればSchmahlであることは間違いないと指摘された部分です。どちらもバスヒッチピンレールがツールボックスの中まで伸びていますが、これはより楽器の強度を増すための工夫でしょう。そしてその端は、ツールボックスの容積を確保するために斜めにカットされています。一方、Friedericiのバスヒッチピンレールは直角にカットされツールボックス内部まで伸びていません。
5. マウスホールの形状  16台のSchmahlの内8台は,長方形の両端を円形にカットした形状のマウスホールを1つ持っています。その他は長方形が1台、楕円形が1台、形状が確認できないものが2台、不明が4台となっています。この楽器にも、他の多くのSchmahlと同様の長方形の両端を円形にカットしたマウスホールがあります。一方、FriedericiのマウスホールはLiepzigは小さめの長方形のものが2つ、Parisは確認できていませんががおそらく長方形が1つです。
6. ブリッジの形状  Schmahlのブリッジの特徴は、高音部分の小ぶりな曲線とストレートに伸びた低音部分からなるJ字状の形状と弦の当たる部分切り込んだ溝ですが、同様の特徴はFriedericiにも見られます。一方Schmahlのブリッジの両端は直角にカットされていますが、Friedericiでは低音、高音ともほぼケースと並行になるよう斜めにカットされています。

 

これらの比較の結論として、今回調査した楽器はRegensburgのSchmahlファミリーと類似する多くの明確な特徴を持っている一方で、Friedericiとの類似はわずかであり、したがってこの楽器はattributed to Schmahlとするのが妥当と考えられます。ただ、イニシャルの謎は残りますので、これは継続して調査したいと思います。
製作年代は、おおまかには他のSchmahlの現存例から、1790年代からChristoph Friedrichが亡くなる1814年までの間と考えられますが、Crowell氏はツールボックスの蓋の形状から1794年以降と推測しています。

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